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東京高等裁判所 平成11年(ネ)2335号 判決

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴人が当審において追加した予備的請求に基づき、

1  被控訴人大関ユキは、控訴人から金一〇〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、原判決別紙物件目録記載二、四及び五の各建物を収去して、同目録記載九の土地を明け渡せ。

2  被控訴人坂本登美子及び同坂本信二は、控訴人から合計金三〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、原判決別紙物件目録記載三の建物を収去して、同目録記載一〇の土地を明け渡せ。

3  被控訴人金井明美は、控訴人から金五〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、原判決別紙物件目録記載八の建物を収去して、同目録記載一一の土地を明け渡せ。

三  控訴人のその余の予備的請求をいずれも棄却する。

四  当審における訴訟費用は、これを一〇分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの各負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  (主位的請求)

(1)  被控訴人大関ユキ(以下「被控訴人大関」という。)は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載二、四及び五の各建物(以下「本件二建物」のようにいう。)を収去して、同目録記載九の土地(以下「本件九土地」という。)を明け渡せ。

(2)  被控訴人坂本登美子及び同坂本信二(以下両名を「被控訴人坂本ら」という。)は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載三の建物(以下「本件三建物」という。)を収去して、同目録記載一〇の土地(以下「本件一〇土地」という。)を明け渡せ。

(3)  被控訴人金井明美(以下「被控訴人金井」という。)は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載八の建物(以下「本件八建物」という。)を収去して、同目録記載一一の土地(以下「本件一一土地」という。)を明け渡せ。

3  (当審で追加された予備的請求)

(1)  被控訴人大関ユキは、控訴人から九二一万五三一〇円または裁判所が相当であると定めた金員の支払を受けるのと引換えに、本件二、四及び五各建物を収去して、本件九土地を明け渡せ。

(2)  被控訴人坂本らは、控訴人から二一四万三三八八円または裁判所が相当であると定めた金員の支払を受けるのと引換えに、本件三建物を収去して、本件一〇土地を明け渡せ。

(3)  被控訴人金井は、控訴人から三五七万六一七四円または裁判所が相当であると定めた金員の支払を受けるのと引換えに、本件八建物を収去して、本件一一土地を明け渡せ。

4  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人ら

控訴棄却、当審で追加された予備的請求棄却

第二事案の概要

本件は、本件一土地の所有者である控訴人が、大正八年ころ締結された本件一の土地についての賃貸借契約が平成一一年一二月三一日に期間満了を迎えるに当たって、更新を拒絶し、右更新拒絶には正当事由があるから同賃貸借契約は終了した旨主張して、賃借人である被控訴人大関に対し、同被控訴人所有の地上建物を収去して本件九土地部分の返還を、被控訴人大関から本件一土地の一部を転借したその余の被控訴人らに対し、それぞれが所有する地上建物を収去して各自が占有する転貸土地部分の返還を求めた事案である(以下、被控訴人大関に対する請求を「甲事件」、同坂本らに対する請求を「乙事件」、同金井に対する請求を「丙事件」ということがある。)。

一  争いのない事実

1  本件一土地の賃貸借契約に関し当事者間に争いのない事実として、原判決書五頁八行目から同一一頁一行目までを引用し、その次に、行をかえて左のとおり加入する。

「15 本件一賃貸借契約は、旧借地法が制定された大正一〇年より前に締結されたものであることから、同法一七条一項によりその存続期間は二〇年とされ、昭和一四年ごろこれが満了し、そのころ第一回目の法定更新により存続期間が二〇年延長となり、これが満了した昭和三四年ごろ第二回目の法定更新により存続期間が二〇年延長となり、これが満了した昭和五四年ごろ第三回目の法定更新により存続期間が二〇年延長となり、その期間は遅くとも平成一一年一二月三一日をもって満了した。

16 控訴人は、右期間満了に先立ち、本訴において、被控訴人大関に対し本件一賃貸借契約の更新を拒絶する旨の意思表示をした。」

二  争点

本件の主要な争点は、控訴人の右更新拒絶に正当事由があるか否かであり、この点に関する当事者双方の主張は、次のとおりである。

1  控訴人の主張

左の点に照らせば、控訴人の右更新拒絶には正当事由がある。

(一) 控訴人は、賃貸住宅を求めている多数の住民に対し優良な賃貸住宅を供給することを目的とする栃木県の特定有料賃貸住宅制度を利用し、本件一土地上に一戸当たり約二〇坪、総戸数約二五戸の特定有料賃貸住宅マンションを建築する計画を有している。

(二) 控訴人は、かつて、本件二賃貸借契約及び本件三賃貸借契約の締結をもって無断転貸に該当するとして本件一賃貸借契約の解除を主張し、その結果、被控訴人大関は昭和四一年一月分から、同坂本らは昭和四二年一月分から、同金井は昭和四二年一月分から地代を供託しているところ、控訴人は、被控訴人らに対し、本件一賃貸借契約の更新を拒絶するに当たって、これらを全て各供託者において取り戻すことを承諾するとともに、建物の取壊収去費用を控訴人において負担する旨の条件を提示した。

(三) 本件一賃貸借契約を締結してから既に八〇年間という、私有財産制の経済社会において極めて異常な長期間が経過している。

(四) 被控訴人らは、三〇年以上前から賃料の供託をしているものであり、その三〇年の間に、本件一土地は、単なる住宅地から駅前の立地に変身した。この間、控訴人としては自己の夫婦、親子及び兄弟の間において、その間における私有財産を利用し合って生活を律するように努力し、計画してこなければならないでいたところ、被控訴人らは何らの努力も計画もせず、漫然と三〇年以上の期間を経過し、未だに他人の私有財産の利用をあてにするもので、かかる態度はもはや許されない。

2  被控訴人らの主張

左の点に照らせば、控訴人の右更新拒絶には正当事由がない。

(一) 被控訴人大関について

被控訴人大関は、現在八二歳の一人暮らしの高齢者であり、昭和一五年に嫁して以来本件建物に約六〇年間居住し続けている。平成一〇年に転倒した際足に金具をいれたこともあって杖を頼りに歩かざるを得ない状況で、右手術後はトイレを改造したり、てすりを設置したりしてどうにか生活している。本件二建物は、基礎や柱がしっかりした堅牢な造りで、台所、風呂場、トイレの他四畳ないし八畳の四室があり、居住するのに極めて快適である。二人いる娘も、一人は千葉県に嫁いでいるので遠くて移住できず、もう一人の嫁ぎ先は家が狭く被控訴人大関が入居できる余地はない。貸家はあるが、長年居住しているので明渡しを受けることは不可能である。被控訴人大関は、年金と右貸家からの収入の合計である月一一万円で一人細々と生活しているもので、他所に居住して家賃を支払う資力はまったくない。

(二) 被控訴人坂本らについて

被控訴人坂本らは、昭和二三年に婚姻した夫婦であり、妻は昭和一三年から、夫は昭和二三年から本件三建物に居住し始め、妻七一歳、夫七九歳になる現在は二人だけで居住している。三人いる子供は、いずれもその配偶者の親と同居しており、子供らが被控訴人坂本らを引き取ることも不可能である。被控訴人坂本らは本件三建物の壁と屋根を昭和四五年及び同六〇年に改修しており、トイレ、台所、風呂場も他六畳ないし八畳の三部屋がある本件三建物は現在も居住するのに何らの差し支えもない。また、被控訴人坂本らはともに年金で生活しており、他に家賃を支払って生活する余力はない。

(三) 被控訴人金井について

本件八建物の一階の内約五九平方メートルは有限会社金井製作所が鉄工機械部品加工の工場として使用し、他の部分に被控訴人金井が、夫、母親、子供二人とともに居住している。有限会社金井製作所は、被控訴人金井の父親が本件八建物建築前の昭和三〇年ごろから旧建物において始めた鉄工機械部分の加工業が法人化したもので、二二台の加工機械を設置して、被控訴人金井、夫、母親の三名が働いて、年間約一三〇〇万円を売り上げ、右三名はその中から給料として年間合計約七〇〇万円を得ており、被控訴人金井の家族は右収入で生計を維持している。右工場を移転するには莫大な費用がかかり、被控訴人金井(昭和一六年一月生)及びその夫(昭和一三年二月生)の年齢を考えると他に転職することは不可能である。本件八建物を収去し本件一一土地を明け渡すと、被控訴人金井の家族は生計を維持することができない。

第三争点に対する判断

一  証拠(甲四〇、四二、四三)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、被控訴人らから返還を受けた後、賃貸住宅を求めている多数の住民に対し優良な賃貸住宅を供給することを目的とする栃木県の特定有料賃貸住宅制度を利用し、本件一土地上に一戸当たり約二〇坪、総戸数約二五戸の特定有料賃貸住宅マンションを建築する計画を有していることが認められる。右の事実によれば控訴人には本件一土地を使用する必要のあることが認められる。

二  これに対して、証拠(乙六の1ないし8、七、丙五の1ないし4、六、丁七の1ないし4、八、九の1、2、一〇の1、2、一一)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり被控訴人らにも本件一土地の各占有部分を使用する必要のあることが認められる。

1  被控訴人大関は、現在八二歳の一人暮らしの高齢者であり、昭和一五年に嫁して以来本件二建物に約六〇年間居住し続けている。平成一〇年に転倒した際足に金具をいれたこともあって杖を頼りに歩かざるを得ない状況である。本件二建物には、台所、風呂場、トイレの他四畳ないし八畳の四室があり、右手術後はトイレを改造したり、てすりを設置したりして、老朽化してはいるものの、現在生活するのに特段の不都合はない。被控訴人大関には娘が二人いるが、いずれも直ちに被控訴人大関を引き取ることはできない状況にある。被控訴人大関は、本件四建物を訴外小堀米子に貸し、年金と右貸家からの収入の合計である月一一万円で生活しており、現在のままの生活を引き続きすることを強く希望している。

2  被控訴人坂本らは、昭和二三年に婚姻した夫婦であり、妻は昭和一三年から、夫は昭和二三年から本件三建物に居住し始め、妻七一歳、夫七九歳になる現在は二人だけで居住している。被控訴人坂本らには子供が三人いるが、いずれも直ちに被控訴人大関を引き取ることはできない状況にある。本件二建物には、トイレ、台所、風呂場も他六畳ないし八畳の三部屋があり、被控訴人坂本らが壁と屋根を昭和四五年及び同六〇年に改修したこともあって、現在生活するのに特段の不都合はない。被控訴人坂本らはともに年金で生活しており、現在のままの生活を引き続きすることを強く希望している。

3  本件八建物の一階の内約五九平方メートルは有限会社金井製作所が鉄工機械部品加工の工場として使用しており、他の部分に被控訴人金井(昭和一六年一月生)が夫(昭和一三年二月生)、母親、子供二人とともに居住している。有限会社金井製作所は、被控訴人金井の父親が本件八建物建築前の昭和三〇年ごろから旧建物において始めた鉄工機械部分の加工業が法人化したもので、二二台の加工機械を設置して、被控訴人金井、夫、母親の三名が働いて、右三名はその売上げの中から給料を得ており、被控訴人金井の家族は右収入で生計を維持している(有限会社金井製作所としてはここ数年来利益をあげていないことが窺え、被控訴人金井が実際にどの程度の収入を得ていたのかは本件全証拠によっても明らかではない。)。本件八建物を収去し本件一一土地を明け渡すことになった場合に生じる工場移転に伴う費用、転職の困難性を考え、被控訴人金井の家族は現在のままの生活を引き続きすることを強く希望している。

三  しかし、証拠によれば、さらに次の事実が認められる。

1  本件一賃貸借は、前記のとおり、控訴人の祖父である田之助が被控訴人大関の義父角太郎との間で、大正八年ごろ、普通建物所有目的で期間を定めずに締結されたものであり、その後二回の法定更新を経て、今回の期間満了時までに既に八〇年もの期間が経過している。

2  前記のとおり、本件二建物は大正八年に、本件三建物は昭和一三年に、本件四建物は昭和一五年に、本件五建物及び本件七建物は昭和一三年に、本件八建物は昭和四〇年ころ、同一〇年に建築された本件六建物をその一部を残す形で取り壊して建築された(原審金井本人)、いずれも木造建物である。なお、被控訴人金井の父親である朋次は、本件六建物を建築するに当たって被控訴人大関の夫である武男に話を通し、控訴人にも話してほしいと依頼したが、結果的に控訴人に話が伝わっていなかったため、建前のころになってこれを知った控訴人との間にトラブルが起き、右トラブルは控訴人の親族が間に入ってようやくおさまったということがあった(原審被控訴人金井)。

3  本件一土地の時価は一億一四三〇万円程度であり、権利として問題のない借地権の実勢評価割合は五〇パーセント程度である。これに基づいて、本件九ないし一一土地の借地権の価格を面積比をもって算出すると、左のようになる(甲四二、四四、四五、弁論の前趣旨)。

本件九土地分  二一五〇万円程度

本件一〇土地分  七八七万円程度

本件一一土地分  六三七万円程度

4  控訴人は、かつて、本件二賃貸借契約及び本件三賃貸借契約の締結をもって無断転貸に該当するとして本件一賃貸借契約の解除を主張し、その結果、被控訴人大関は昭和四一年一月分から、同坂本らは昭和四二年一月分から、同金井は昭和四二年一月分から地代を供託しており(争いがない)、そのこともあって、控訴人はそのころから地代の値上げも求めていなかったため、被控訴人らは当時の約定地代を元にしたうえ隣地の東武鉄道の地代を参考にしたりして自らの判断によって随時増額したりしつつ供託し続けていたところ(乙二の1ないし4、弁論の全趣旨)、控訴人は、本訴において、被控訴人らに対し、本件一賃貸借契約を終了させることができるならば、これらを全て各供託者において取り戻すことを承諾するとともに、建物の取壊収去費用を控訴人において負担すること、転居先として控訴人が別に新築したばかりの足利市中川町のマンションを用意して提供すること、本件一土地にマンションを新築後は同マンションに優先的に入居を認める旨の条件を提示している。右供託金の返還を正式に求めた場合、利息を付して左記の金額が国庫から返還されることになる(甲四三、弁論の全趣旨)。

被控訴人大関分  九二一万五一三〇円

被控訴人坂本ら分 二一四万四三八六円

被控訴人金井分  三五七万六一七四円

5  右4のとおり、被控訴人らは、三〇年以上前から賃料の供託をしているものであるが、その三〇年の間に、本件一土地は、単なる住宅地から東武伊勢崎線東武足利駅前の立地に変身している(甲四二)。

四  以上に認定した事実によれば、控訴人には前記一のとおりの本件一土地を使用する必要性があるが、被控訴人らにも前記二のとおりの必要性があるのであって、本件更新拒絶には直ちに正当の事由があるとは断定しがたいものの、前記三に認定したような本件一賃貸借契約の経緯、特に本件一賃貸借契約は当初契約時から既に八〇年もの長期間を経過しており、被控訴人らが本件借地上に所有している建物も築後かなりの長期間を経過しているものであること(本件二建物は八〇年、本件三、五、七建物は六二年、本件四建物は六〇年である。本件六建物は築後三五年であるが、その建築については前記2のような経緯がある。)、双方が本件一土地を必要とする前記一、二のような事情、社会公益的見地からの考察、その他控訴人が被控訴人らに立退料の支払を申し出ていること等一切の事情を総合して勘案すると、控訴人の本件更新拒絶には、右意思表示当時、控訴人において相当額の立退料を提供することによって正当の事由を具備していたものと認めることができ、右立退料は、被控訴人大関に対し一〇〇〇万円、同坂本らに対し合計三〇〇万円、同金井に対し五〇〇万円とするのが相当である。

五  そうすると、控訴人の主位的請求は理由がないからこれを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとするか、控訴人が当審において追加した予備的請求は主文二項記載の限度で理由があるからこれを認容すべく、その余は理由がないからこれを棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条、六四条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川英明 裁判官 川口代志子 裁判官宗宮英俊は、差し支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官 小川英明)

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